6月2日の毎日新聞朝刊に
アメリカの現代美術家である
「クリスト・ヤバチェフ」が
亡くなったという記事が
小さく掲載されていました。
クリストは物体や建築物や景観を
布などで覆う手法を得意とし、
パリのセーヌ川にかかる橋
ポンヌフを丸ごと包んだ作品などが有名です。
日本でも作品があり、
1991年、茨城県旧里見村に
1340本の青い傘、
同時にカリフォルニアに
1760本の黄色い傘を立てるという
「 アンブレラ 」を実現させました。
里美村は市町村合併によって
常陸太田市里見地区となっています。
この里美村に
「 道の駅さとみ 」を
設計し竣工したのは
1994年のことでした。
設計のモチーフを
「クリストのアンブレラ」としながら・・・。
旧里見村は、
山々に囲まれた
林業と畜産業の盛んな村でした。
地場産業である「林業」で
「アンブレラ」を建築化しようとする
試みが実現したものです。
「 道の駅さとみ 」は
建築設計資料53
「道の駅」に掲載され表紙にもなりました。
この建築設計資料に
僕自身が書いた
計画初期のイメージを再録してみます。
※※※
世界的に著名な環境芸術家であるクリスト・ヤバチェフ氏が、里美村において「アンブレラ展」を1991年、米国カリフォルニア州と同時並行的に実施した。
山野にそれぞれ1400本から1500本の巨大な傘(直径8m)を立てるという壮大な環境アートであった。
この鮮烈な記憶を、この駅において形態化しようとした・・・、
人々の交流の場であり、多目的なギャラリーである休憩所に大きな傘を1本、男・女・身障者トイレにそれぞれ小さな傘を3本、林産物販売所・レストランには大きな傘を3本、計6本の傘を立て10mモデュールの箱で包む・・・。
駅で、木の傘の下で、木の箱の中で、人びとがふれあい、やすらぐ・・・。
外観において八角形の屋根が傘を暗示させ、内部において屋根を支える傘を実感させる。山山が切り取る空の風景がなめらかに変化していくように、屋根のレベルも少しずつ変化し、それに伴い箱の高さも変化する。
雁行しながら結びつくやや閉鎖的な箱の連続は、屋根の隙間から柔らかい光を落とし、里川と村の風景を望めるレストランにて開放する。
この駅に求められた異なるいくつかの機能は、こうして「傘」というキーワードでひとつにまとめられ、街灯、あずまや、電話ボックスまでも意匠的な統一を図る。
※※※