大町の家という舟を編む
言葉の海は広く深い。
なにかを生みだすためには、言葉がいる。
岸辺みどりはふと、はるか昔に地球上を
覆っていたという、生命が誕生する前の
海を想像した。
混沌とし、
ただうごめくばかりだった濃厚な液体を。
ひとのなかにも、同じような海がある。
そこには言葉という落雷があってはじめて
すべては生まれる。愛も、心も。
言葉によってかたどられ、
くらい海から浮かびあがってくる。
松本先生は静かに言った。
言葉は、言葉を生みだす心は、
権威や権力とはまったく無縁な、
自由なものなのです。
また、そうあらねばならない。
自由な航海をするすべてのひとのために
編まれた舟。
「大渡海」がそういう辞書になるよう、
ひきつづき気を引き締めて
やっていきましょう。
(舟を編む 三浦しをん)
古本屋で奇妙なタイトルの本をみつけた。
「舟を編む」・・・・・舟は編むもの?
この不思議な言葉にひかれてこの本を買った。
読みすすめていくと、
玄武書房の編集室で
辞書を編纂していく物語だとわかっていく。
二千九百ページにも及ぶ辞書。
24万語の言葉によって辞書を編んでいく・・・。
最終的に「大渡海(だいとかい)」という辞書は、
14年かかって完成される・・・。
この物語を読んで、
「大町の家」のようだと思った。
十数棟の民家の部材を、
数えきれない数の柱や梁を、
一本たりとも同じ部材はなく、
部材は太く、三次元に曲がっている。
この部材たちを、
イメージする空間に調和するように、
構造的に堅牢になるように、
設計図をみながら、
選び、組み合わせていく・・・。
この再構成する架構に、
さらに古い建具が絡んでくるから、
余計にやっかいだ。
まさに「 架構と空間を編む 」作業だ。
四か月から五か月かけて部材選定をおこない、
今年のはじめに、部材選定が完了した。
現在、若い棟梁を筆頭に
墨付けと刻みを進めている。
気の遠くなるような作業だ。
by y-hikage
| 2016-05-06 12:02
| 大町の家
|
Comments(0)