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日日日影新聞 (nichi nichi hikage shinbun)

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こんなCDをみつけました。

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例えば、小澤征爾さんと村上春樹さんは

この本の中でベートーヴェンの曲を

聴きながらこんな話をしています・・・。



内田光子とザンデリンク、

ベートーヴェン・ピアノ協奏曲第三番

村上

「このへんでいよいよ内田さんの演奏を聴いてみましょう。

三番の協奏曲。僕はこの二楽章の演奏が何より好きなんです。

あまり時間がないので、変則的だけど、二楽章から聴いてみてください」

静かな、たおやかなピアノ独奏で始まる。

小澤

(すぐに)「音が実にきれいだ。この人って、ほんとに耳がいいんですね」

やがてオーケストラが足音を忍ばせるように、そっと入ってくる。

村上

「オーケストラはコンセルトヘルボウです」

小澤

「ホールもいいなあ」

そこにピアノがからむ。

小澤

(深く感心したように)

「しかし日本からも、ほんとに素晴らしいピアニストが出てきましたね」

村上

「この人のタッチはクリアですね。

強い音も弱い音も、どちらもはっきり聞こえる。

ちゃんと弾ききっている。曖昧なところがない」

ゆっくりと間を取りながら、ピアノのソロが続く。

小澤

「ここね。すっと間を取ったでしょ。

これ、グールドがさっき間を取ったのとちょうど同じところですよ」

村上

「そういえばそうですね。間の取り方というか、音の自在な配置の仕方が、どことなくグールドを彷彿させます」

小澤

「うん、たしかに似てる」

ピアノの精緻きわまりない独奏が終わりを迎え、

そこにふっとオーケストラが入ってくる。

絶妙な音楽。二人で同時にうなる。

小澤

「うーん」
 
村上

「うーん」

小澤

「ほんとに耳がいいんですよ。

音楽的な耳が、この人は」

しばらくのあいだピアノとオーケストラの絡みが続く。

小澤

「今の三つ前のところ、音が合ってなかったな。

光子さんきっと怒ってるんじゃないかな(笑)」

空間に墨絵を描くような、どこまでも美しいピアノの独奏。

端正で、かつ勇気にあふれた音の連なり。

ひとつひとつの音が思考している。

村上

「ここのところが、何度聴いてもいいんです。

どれだけゆっくり弾いても緊張感がまったく途切れない」

そのピアノが終わり、オーケストラが入ってくる。

村上

「ここの入り方、むずかしそうですね」

小澤

「ここ、もっとうまく入らなきゃ」

村上

「そうですか」

小澤

「もっとうまくやれる」

第二楽章終わる。

小澤

(深く感心する)

「いや、これはすごいな。光子さん、素晴らしいです。

何年ごろの録音なんだろう、これ?」

村上

「1994年です」

小澤

「16年くらい前か」

村上

「でもいつ聴いても、まったく古びるところがないですね。

気品があって、瑞々しくて」

小澤

「この二楽章というのはもう、これ自体特別な曲ですね。

ベートーヴェンの中でもほかにこういうものはないような気がする」

村上

「これだけ音楽を引っ張るのには、すごく力が必要みたいですね。

ピアノの方もオーケストラのほうも。

とくにオーケストラの入り方なんか、傍目から見ても大変そうですけど」

小澤

「入り方はむずかしいねえ。

これはもうほんとに、息の取り方がね、大変です。

弦楽器も木管楽器も指揮者も、

全員が同じ息の取り方をしなくちゃならないんです。

これが簡単じゃないんですよ。

さっきなんかも、うまくすっと入れなかったのも、そのへんですよね」

(小澤征爾さんと、音楽について話をする

:小澤征爾×村上春樹 共著 より)




僕は音楽についてまったくの素人なのですが、

「小澤征爾さんと音楽について話をする」

の中の小澤さんと村上さんの会話が

なんとなく好きで何度か読み返しました。

ただ残念なことに会話の中に

登場する音楽を読んでも、

頭の中でその曲が流れてくることは

ありませんでした。

音楽が頭の中で流れないどころか、

作曲家と曲名が

一致することもありませんでした。

少し悔しいけれど・・・

まあ音楽に関してはド素人だから、

しょうがないと思っていました。

そう・・・

しょうがないと思ってきましたが、

古本屋で

『 「小澤征爾さんと音楽について話をする」

で聴いたクラシック』 で見つけた時は、

救われる思いがしました。

このCDを聴きながら本の中での

二人の会話を読んでいると

本の世界の中に入っていけるような

気分になれるのでした。

そのかわり、仕事は完全に中断いたします。


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# by y-hikage | 2016-05-22 06:40 | 日影アトリエの本棚 | Comments(0)